再電離期の星形成銀河からの輝線放射の計算

近年ALMA や JWST による観測によって、赤方偏移 z > 6 の高赤方偏移銀河から [O III] 88 µm および 5007 Å の強い放射線が検出されています。宇宙誕生から10億年以内に形成された銀河はここ数年前から観測されはじめたため、遠方銀河の化学進化の様子が分かっていない。そこでNakazato+23では、大規模・高解像度の宇宙論的銀河形成シミュレーションを用い、銀河内部の星間ガスや星形成領域の物理モデルを取り入れ、放射される酸素輝線の強度を詳細に計算しました。

その結果、Nakazato+23 は、[O III] が明るい銀河は近傍銀河と比べて 10 倍も高い電離状態を示し、z = 9 の時点で既に金属量が太陽の約 20% (0.2 Z⊙) に達していることを明らかにしました (図1, 図2)。また、この急速な化学進化によって形成される質量と金属量の関係は、最新のJWSTの観測結果 (例: Nakajima+23) と整合的であることが分かっています。

さらに今後、JWST と ALMA を組み合わせた観測では、可視光〜近赤外域から遠赤外域までの輝線比を利用することで、高赤方偏移 [O III] 放射源を取り巻く星形成ガスの電子密度や金属量などの物理的条件を推定できると考えられます (Fujimoto+24, Zavala+24)。こうした研究は、宇宙初期の銀河進化や化学進化の理解を深める上で、非常に重要な役割を果たすと期待されています。

図1: 宇宙年齢8億年 (赤方偏移z=7)のシミュレーション銀河の密度, 電離パラメータ, および放射強度分布。高密度部分で若い星が多く分布しており、電離パラメータが大きく、[OIII]輝線強度も大きい。
図2: 宇宙年齢5-10 億年(赤方偏移z=6-9)における銀河の星質量と金属量の関係。シミュレーションの銀河サンプルの分布は帯で示す。プロットはJWSTの観測結果を示す。